くりすます

毎年恒例のこの町が浮かれる季節がやってまいりましたな。ひかりが強くなればなるほど、影は濃くなるもので。

1人身にとっては辛い季節でございます。

なので毎年、クリスマスなど知りませんという顔をしたり、クリスマス逃げてなるものか、と立ち向かって結局しんどかったりしております。今年は記憶の中から消してみようかと・・・。

クリスマスって、なんだっけ?たしか、昔、どこかの田舎に行った時にそういった風習があると聞いた事がある。ペンションを経営しているおばあさん に、その日はクリスマスで、クリスマスツリーにイルミネーションを灯していた時に「まぶしい・・・ワシにはまぶしすぎる・・・」と言って、その話ははじ まった。

「聖子!とうとう今年は俺がさんたに選ばれたようだ」と、聖子のお父さんは苦い顔をして言った。
もうすぐ、毎年恒例のあの「くりすます」がはじまる。聖子は高校3年生だ。とある山深い田舎に住んでいる。今年もあの忌まわしい風習「くりすま す」がはじまる。昔は毎年あったそうだが、遺族の感情をかんがみて、今は4年に一度となった。かつて、私の兄もさんたになった。20歳だった。今度は父 が・・・。

その日から父は悲しみを抑えているのか勤めて明るかった。「おれ、今年さんただから」と、陽気にふるまっている。選ばれたんだ。と、喜んでいる。いつまにか靴下は増えていた。

前日、父は私を呼んだ。「これから、おまえは母さんと生きなさい。それから、おまえの兄ちゃんはな、秘密を知ってしまったんだ。私ももちろん知っている。この村の秘密だ」その時の父の顔は今でも覚えている。悲しみと憎悪に満ちた顔だった。

「くりすます」当日。人でにぎわっていた。みんな村の男達は白装束だ。やがて、トナカイがたくさん運ばれてきて、村の男達はそれに乗る。太鼓の音が遠くから聞こえる。女達は1人づつロウソクを持って回りを囲んでいる。もちろん私も。

太鼓の音に重なり、ひちりきがなりはじめる。男達の「うぉー」という怒号とともに大さんた様がイルミという祭壇に姿を現した。大さんた様は 「うぃー」と大声を張り上げると、村の男達は、「うぃっしゅ」と全員が返した。やがて、太鼓のリズムが変わり「うぃーうぃっしゅあめりくりすます、うぃー うぃっしゅあめりくりすます」と童歌のようになっていった。

村の男達は、トナカイにそれぞれが持った刃物で切り始めた。トナカイは血しぶきをあげた。あたり一面、血の海になり、それぞれが想像しうるサンタの姿へ白装束は変わっていった。♪うぃーうぃしゅあめりーくりすます
と音楽は鳴り響いている。

やがて、音楽は♪しゅはきませりーになり、父がイルミ祭壇へ、祭り上げられた。祭壇に父は寝そべり、いつものように首が大さんた様により、切り落とされようとした時、父は包丁で大サンタ様を刺した。音はぴたりと止まった。沈黙を裂いて、父は叫んだ・・・

「聖子!逃げろ」

母は横にいた。「行くよ」と手を引っ張り私は走った。周りの村人は私達を囲んだ。それに目もくれず私は走った。母は途中で転んでしまい、村人に集団で蹴られているのを最後に見ながら私は走った。母は最期まで「聖子、にげろ」と叫んでいた。

山から下りて、しばらく走った。街中に付いたのは朝方だった。それから、ヒッチハイクを繰り返し、私は気が付いたら東京駅にいた。その日もくりすますだ。

東京駅の光はまぶしかった。駅が映画のように次々と音楽と共に模様が変わる。おそらく、プロジェクションマッピングというやつだ。だが、聖子は知らない。「なにこれ・・・。父ちゃん、クリスマスってこういうものだったの・・・」

きっと兄は東京の街でクリスマスという存在を知ってしまったんだろう。それで生贄に・・・。
私はあの村の風習とあの村の人達への恨みに震えた。
私は、いつかきっとあの村に戻る。家族のために。

と言う話をそのおばあさんはした後、僕の事を「兄さん」と呼んでいた・・・。というお話。